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SONY エアボードから10年、Apple の iPad に思う [技術系]

SONY が 2000年に発売した、エアボードという「パーソナルITテレビ」をご存じの方はいらっしゃるだろうか。

無線LANがやっと実用化されつつある時代だった。タッチパネルを使い、ワイヤレスでテレビが観られ、インターネットで Web をブラウズでき、メールが読み書きでき、デジカメの写真を閲覧できる、そんな「テレビ」だった。

idt[1]
SONY エアボード IDT-LF1

ビデオやインターネットなどをワイヤレスで楽しめる
AVとITを家電感覚で使いこなす新コンセプトの“パーソナルITテレビ” 発売
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200009/00-0928/

今、当時のプレスリリースを読んでみると、「デジタルデバイドの解消」と書いてあって、面白い。

結局、我が家的には、「お風呂で使えない」という理由だけで却下となってしまったのだけれど、”AIR” にこだわりのある人間としては、とても興味深く思っていたのを覚えている。

あれから10年の、昨日、サンフランシスコで Apple の Steve Jobs が iPad を発表した。余談になるが、例年、この時期の恒例行事といえば Macworld Expo / San Francisco で、以前は毎年のように参加していたものだけれど、もう 10 年以上行っていない。その前は、NeXTWORLD EXPO が San Francicso であり、Jobs の Keynote Speech を楽しみに参加していた。参加者が少ないこともあり、当時 Jobs と話ができたのは夢のようだ(1990年代前半の話)。

iPad については、多くの記事で報道がなされているので、僕があえて書く必要もないと思う。しいて言えば、こんな感じ。


iPad: Steve Jobs presents Apple’s new tablet

さて、その SONY は、1999年にも ”メモリースティック ウォークマン” NW-MS7 を発売している。

小型・軽量で、振動にも強い“メモリースティック ウォークマン” 発売
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/199909/99-0922B/

当社は、カセットテープ、CD、MDの“ウォークマン”に加え、“メモリースティックウォークマン”を発売することにより、来るべきデジタル・ネットワーク時代に向けての新しい音楽の楽しみ方を提案いたします。

とあるところに、時代を感じる。Apple が iPod を発表したのは、2001年11月17日。

1990年代の前半、実は、SONY は Apple を買収する計画を持っていた。Jobs が不在となり赤字に苦しんでいた Apple を救ったのは SONY だったのだけれど、マスコミにすっぱ抜かれて、この話は流れてしまった。それが実現していたら、今の Apple はなかったかもしれないけれど・・。ちなみに、1991 年に発表された Macintosh PowerBook 100 は SONY が開発製造に関与していた。

その Jobs は、1979 年、XEROX の Palo Alto 研究所にて GUI を持った新しいコンピュータ Alto に触れて衝撃を受けた。そして、当時パソコンの先駆けとなった Apple II の後釜として、Macintosh を 1984 年に発売した(間に Lisa という可愛そうなコンピュータもあるのだけれど)。僕は、この初代 Macintosh を大学で使っていた。その後、Jobs は経営上の対立で Apple を追われ、NeXT, Inc. を設立して、革命的な GUI と設計思想を持ったワークステーション NeXT を 1988 年に発売した。

Steve Jobs at NeXT, Inc.
Steve Jobs at NeXT, Inc.

オランダ・アムステルダムにある frog design ( http://www.frogdesign.com/ ) による筐体デザイン。Jobs が古くからひいきにしてきたデザイン会社だ。僕は、その頃 Macintosh II を持っていたけれど、NeXT Computer System (NeXTcube、Megapixel Display、NeXT Laser Printer の一式) も購入し、自宅からインターネットに接続した。1991年のことだ。

NeXTcube & Megapixel Display
NeXTcube & Megapixel Display

NeXTcube & Megapixel Display & NeXT Laser Printer
NeXTcube & Megapixel Display & NeXT Laser Printer

NeXTcube 
NeXT Computer System

“State of the art” と呼ばれた NeXT のシステム。インターネットにはロクな写真がなかったので(泣ける)、上の写真2枚は当時のカタログをデジカメで撮影して加工して持ってきた・・

その表面的なアイディアは Windows 95 に持って行かれてしまったように思う。Windows NT(後の Windows XP や Vista、7 の原型)にも盗まれたものが多かった。この時代は、とにかく悔しかった。ちなみに、World Wide Web が発明されたのは、NeXT の上だった。小説『天使と悪魔』にも出てくるけれど、欧州の CERN が NeXT の熱狂的なユーザだったからだ。NeXT の設計思想が素晴らしかったから、このようなものを生み出すことができたのだと思う。その Web にしても、もとのアイディアといえば、僕の古くからの友人の Ted Nelson や Douglas Engelbart の・・と書き始めると、きりがないのでやめておく。

NeXTcube Motherboard
NeXT はマザーボードもシンメトリーで美しい設計だった

しかし、メゲない Jobs が Apple に復帰し、まず iMac を作り、NeXTSTEP をベースに Mac OS X を作り上げ、iPod を作り、iPhone を作り、、と革新が続いて、現在の Apple があるのだと思う。

要は最初のアイディアだけではダメで、それを、いかに世の中に対して deploy していくか、そういったことが重要なんだな、と学んだ。Jobs も冷や飯を食らっている間にそれを学び、後に実践したのだと思う。

余談になるが、世界初の携帯用メモリー音楽プレイヤーは SONY ではないかと書いたのだけれど、このアイディアを SONY に持って行ったのは僕の古い友達だ。彼は期待してラフスケッチまで用意して、敬愛する SONY のプランナーと会ったのだけれど、その後なしのつぶてだった。しかしある日、プレスリリースで彼がスケッチしたものととても似たものが製品化されたことを知った。

結局、何が言いたいのかと言うと、昨日、ある会社で話をしていて、中国製の iPhone や BlackBerry のコピーがすごい(たとえば、ダブルSIM を挿せるとか、ファミリーコンピュータのエミュレーターが乗っていてドラゴンクエストが動いているとか、キーボードも使えるとか)と聞いて、今は笑っていられるけれど、そのうち、とんでもないことになるな、と思ったから。世の中、コピーがあふれているけれど、10 年後にマーケットを制しているのは、どこの国のどんな会社なのだろう、と思う。何が悪いとかいうことではなく、「オリジナル」や「ブランド」「老舗」というものの考え方そのものが、変わってきているように感じる。

最後に、僕が感動した Steve Jobs の Stanford University での 2005 年のスピーチを紹介して終わりにします。


Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005

※技術系の記事は、以下のサイトに移転しました。
DAYS of TECH and ROSES
http://tech-and-roses.blog.so-net.ne.jp/
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hako

今年に入ってiPoneにしたので、操作感の素晴らしさを実感しています。
当方も一時Macのノートを使っていたので、その賢さにはいつも
驚いていました。使い方が良かったのか、爆弾にもほとんど遭遇しません
でしたしね。さらに昔には、オフィスでJ-StarというXeroxのワープロも
ありました。相当、発想の違いを感じしたものです。
デザインセンスは、それぞれの個性が有っても良いと思いますが、
商業化して万人にも受け入れられるというところが凄いですね。
逆に、万人というのも、愚民とか言われることもありますが、
センスが有るとも言えます。
今朝は、開発者達のプロモビデオを見ながら渋谷に移動していました。
彼らの目が輝いていて、誇らしげだったのが印象的です。
by hako (2010-01-28 19:56) 

YUTAKA

hako さん、チェック&コメントをありがとうございます。

Steve Jobs の素晴らしさについては改めて書く必要もないくらい
なのですが、2005 年のスタンフォード大学での講演は胸を打つ
ものがありました。

'You've got to find what you love,' Jobs says
http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html

とてもいいスピーチだったので、本文でも Youtube の画像を
引用させていただきました。

日本語訳は、色々あるのですが、以下のものを紹介させていただきます。

http://sites.google.com/site/himazu/steve-jobs-speech

開発者というものは、いつも目をキラキラさせていて、新しいことに
チャレンジし続ける姿勢が必要だと感じています。そして、それを
ビジネスにつなげることはとても難しいことなのですが、Jobs は
よく成し遂げているな、というのが僕の率直な感想です。
彼のことを知ったのは、1985 年ですが(Macintosh からです)、
その前の Apple II も含めて、パーソナルコンピュータというものを
世に広め、その素晴らしさを世の人々に広めた功績は大きいなと
感じています。

パソコンは、もともとはヒッピーの文化です。現状に甘んずることなく、
さらに次の一歩へと足を踏み出す勇気こそ、この混迷の時代には
必要なのではないかな、と若輩者ながら思いました。
by YUTAKA (2010-01-28 20:44) 

YUTAKA

nobsatoさん、クリックをありがとうございます。

やはり、そのTシャツは MacOS X のものでしょうか?

Apple や Jobs が、この古くて新しいデバイスをどのように世の中に
広めていくのか、その手腕に期待をしています。
by YUTAKA (2010-01-30 07:44) 

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