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Jancis Robinson(ジャンシス・ロビンソン)女史来日! [ワイン]

前回、>> Master of Wine, Jancis Robinson 来日 で書いたとおり、僕は15年来の Jancis Robinson 女史のファンであったわけだけれど、KOJ (Koshu of Japan) と日本ソムリエ協会の粋な計らいによって、ついにセミナーでお目にかかることができた。2010年2月23日。Jancis Robinson(ジャンシス・ロビンソン)MW (Master of Wine) 女史の来日を、一日千秋の思いできたのだから、本当にラッキーなチャンスだったと思う。

会場は銀座の Argento ASO
会場となった銀座の2つ星レストラン、アルジェントASO

僕の最初のワインの「先生」は、Jancis Robinson MW(Master of Wine)。大英帝国勲章の OBE (Officer of the Order of the British Empire) でもあり、英国王室のセラーをまかせられている。僕は書籍やメディアを通して彼女から、色々なことを学ばせてもらってきた。実はワインエキスパートの試験の時ですら、ソムリエ協会の教本だけでなく、彼女の “Jancis Robinson’s WINE COURSE” を翻訳した、『ジャンシス・ロビンソンの世界一ブリリアントなワイン講座』(上下)をボロボロになるまで読んだ。初心に返ろうと BBC 放送のビデオも何度も見た。ユーモアのある彼女の「講座」は、ためになるだけでなく、とても楽しいものだ。時にユーモラスに、時にシニカルに。

今回の彼女の来日の様子は、青木冨美子先生の記事 >> 日本が誇る“甲州ワイン”を世界に! 力強いサポーターは著名なジャンシス・ロビンソンMW やニュースサイトにプロの視点から詳しく書かれているので、僕は、ワイン愛好家でありファンとして見たジャンシス・ロビンソン女史について書きたいと思う。ただ熱心なファンであるから、若干バイアスがかかってしまっていることはご容赦願いたい。

今回のセミナーの会場は、銀座の2つ星イタリアンレストラン、アルジェントASO。かつて、ジャンシス・ロビンソン女史が、最高のテイスティング環境は、レストランで気の合う仲間とリラックスして、ワインをゆっくり楽しむこと、と言っていたことをちょっと思い出した。

アルジェントASOの会場

こんな感じで、まさにブリリアントな会場で、リラックスして彼女の話を聞くことができた。ちなみに、この日は14時からの予定だったのだけれど、僕は気分が高まって13時には会場に到着してしまった。もちろん一番乗り!というわけで、彼女の真ん前の席を陣取ったのでした。一語一句聞き逃さないように、見逃さないように。

パープルのカーディガンに身を包んだジャンシス・ロビンソン女史は、とてもスマートでエレガントな出で立ちだった。15年前の放送と、同じイメージの彼女が目の前にいると思うとドキドキしてしまったけれど、一生懸命、彼女の言葉に耳を傾けた。ジャーナリストだけあって、かなりハキハキと分かりやすくクィーンズ・イングリッシュをしゃべるのだけれど、通訳の方もよくがんばってらっしゃったと思う。なので、2度聞くことができたわけだから、僕の手帳には彼女の発言がビッシリ書きこまれている。

ジャンシス・ロビンソン女史の第一印象はといえば、とても知的だけれど、気さくで、ユーモアがあって、チャーミングで、オーラがある。 誰もが彼女を好きになる理由が分かる気がする。 Master of Wine であり、OBE で、英国王室のセラーも まかされているのだけれど、そんな偉そうな感じは一切なかった。誰にでも、気さくに応対してくれた。

この会場には、若い方や女性が多くて、とてもいいことだと思います。というのが彼女の最初の一言だった。なんか、ちょっと嬉しい(いや、僕はもう若くはないのだけれど(笑))。

そして世界のワイン動向について、最先端の話も含めて、歴史を話してくれた。振り子のような揺り戻しの歴史なのだけれど、かいつまんで書くと、こんな感じ。

1.1980年代の白ワインブーム
ステンレスタンクや、発酵時の温度コントロールができるようになり、フレッシュなスタイルの白ワインが作られるようになりブームが起きた。シャルドネが世界へ広がっていった。ただ、ブレンド物も多かった。

2.1985年~2005年の赤ワインブーム
「ワイン・グル」(導師)の時代。かつてワインは複雑で難解で、プロの意見がなければ消費者はワインを選ぶことができなかった。そこへ、ロバート・パーカーやワインスペクテイターといった、100点満点のスコア(点数)によってワインを評価するグル達が現れて、世界を変えた。評価されたのは、ビッグでパワフルな赤ワインたち。加えて、アメリカのドキュメンタリー番組 “60 Minutes” で、いわゆるフレンチ・パラドックスが紹介され、赤ワインが健康にいいという評判になった。「まるで薬局に並ぶかのように、人々がワインを買うようになった」と。さらに、2004年の映画”SIDEWAYS”によって、ピノ・ノワールのブームがやってきた。ここで、ジャンシス・ロビンソン女史は、”KOSHU MOVIE” を作ったら?と言って、会場をわかせていた。

3.ピノ・ノワールのブームは、グルの時代からの大きな変化のきざし
ブルゴーニュに代表される、ピノ・ノワールのワインは華やかで繊細でエレガントなのが信条(だと僕は思っている)。これは、グルたちが先導してきたアルコールが高くタンニンが強いパワフルなワインとは対照的。このことは、グルの時代からの変化のきざしで、消費者が力を持ちつつあることの現れではないかと、ジャンシス・ロビンソン女史は言う。もはや、ワインエキスパートの話を鵜呑みにしない時代がやってきたのだと。そして、ウェブサイトやブログ、掲示板、セラートラッカー( http://www.cellartracker.com/ ) 、レコメンデーションなどの情報が主流になってきており、民主主義的なワインの時代が来ているのではないかと。

4.ロゼワインブーム
日本ではまだだけれど、アメリカやヨーロッパではロゼワインブームがだいぶ前から来ている。ビッグなワインから、軽い赤ワインへの動きのサインであり、消費者の嗜好の大変化が起こってきている。それに呼応するように、白ワインもアルコール度数が高くリッチでオークを多用したスタイルから、もっと線の細いシャブリのようなスタイルへ移行しつつある。そんな消費者のサインが感じられる。市場の動向に敏感なオーストラリアは、いち早く、その流れへシフトしてきており、アルコール度数が10~11%の辛口白ワインを作り始めた。

5.そして「リースリング・ルネッサンス」からはじまる白ワインブーム
世界のソムリエがリースリングに注目をし、さらに5~7年前には無名だったオーストリアのグリューナー・フェルトリーナーのブームがやってきた。スペインのエル・ブジや、カリフォルニアのフレンチ・ランドリー、ロンドンのファット・ダックといった世界の一流レストランでは、品数の多い「マルチコース」が提供されているけれど、そこでは料理ごとにグラスでワインを合わせる。その際に、合わせやすいのが白ワイン。白と赤の割合が6対1だそうだ(圧倒的に白が多い)。料理がライトな方向に向かっており、魚を使った料理や、肉でもチキンへとシフトをしてきており、それには白ワインというわけらしい。もちろん、和食も!さらには、ヨーロッパではチーズにも白ワインを合わせるケースが増えてきたのだという。実際、僕の去年のイタリア旅行でも、コモ湖の「ミストラル」やアマルフィ海岸の「ドンアルフォンソ1890」などの星付きレストランでは、マルチコースに地場品種の白を合わせて楽しんできたことを思い出した。

6.ABC (Anything But Cabernet/Chardonnay)
世界のトップソムリエたちは、常に新しいワインを探し続けている。ABC という標語のもとに、これまでのカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといった国際品種ではなく、テロワールを映し出す地場品種への注目が集まっている。イタリアならフリウリのリボッラ・ジャッラ種、そして最近はアルト・アディジェなど。また、ドイツのシルバーナー種。品種の個性の強いソーヴィニヨン・ブランと違い、土地の個性が現れやすい品種なのだそうだ。ただ、地場品種は、地元では「当たり前」に思われすぎていて、過小評価される傾向があるらしい。いわば、舶来品をありがたがるみたいな傾向があるのだろうか?これまで地元でリスペクトされなかったのだけれど、でも時代が変わってきた。また最近は、ロワールのシュナンブラン種やハンガリーのトカイのフルミント種などの例では、甘口ではなく、長熟でしっかりしたボディの辛口が作られるようになってきている。僕も、そういえばピコリット種の辛口を最近味わった。

7.そして甲州の時代へ
このような時代の流れを考えると、1000年の歴史を持った、まさに「地場品種」であり、他に似たもののない甲州が世界で認められる日が来るのではないか、とジャンシス・ロビンソン女史は言う。特に、イギリスやアメリカでは、常に新しいワインが求められている。低アルコールかつ、ピュアで、トランスペアレント(透明)なスタイルの甲州は、イギリス向きだ。甲州はピュアだと言っても、弱弱しいのではなく、authenticity、つまり本物であり、退屈ではないということを強調していた。10年前(赤ワインブーム)では難しかったけれど、今の時代は、甲州のようなデリケートでピュアな白ワインが成功する条件が整っている。ショップでの価格競争ではなく、ハイクラスなレストランや、和食(これはイギリスやアメリカでは大流行だけれど、普通はビールやせいぜい日本酒が提供されている)、またはオイスターバーのようなところへ売り込んで行ったらいいのではないか、と。甲州のチャンスが到来している。

かいつまんで書くつもりが、つい長くなってしまいました。もっと色々な話をユーモアを交えて話してくださったのだけれど、時代は、ピュアでモダンで新しい白ワインへと向かっているということがよく理解できた。その最先端が、甲州というわけだ。

とても知的好奇心をくすぐられる話が満載で、書ききれないのだけれど、ジャンシス・ロビンソン女史からこのような話を聞けたのは、とても有り難い体験だった。

テイスティングの甲州ワインたち
テイスティングしたのは、この5種類

その後、甲州を5種類テイスティングした。テイスティングコメントについては、青木先生の >> 日本が誇る“甲州ワイン”を世界に! 力強いサポーターは著名なジャンシス・ロビンソンMW が的確で詳しいので、僕は割愛するけれど、クリーンでピュアな甲州は、とても興味深く思った。

もともとは、青木先生に甲州の良さを教えてもらってきたのだけれど、今回の、ジャンシス・ロビンソン女史の話で、ますます甲州への興味がわいたと思う。

最後に、ジャンシス・ロビンソン女史のところへ行って、ちょっと話をして、彼女の大著 “The Oxford Companion to Wine, 3rd Edition” にサインをもらった。彼女は、気さくに応じてくれた。A4版で800ページを超えるこの大著は、僕にとってはバイブル。重い思いをして持って行った甲斐があった。一生の宝物だ。

The Oxford Companion to Wine
The Oxford Companion to Wine

Jancis Robinson の直筆サイン
Jancis Robinson MW 女史のサインをもらった!

KOJ のみなさま、本当にありがとうございました。

最後に、香港へ旅立ったジャンシス・ロビンソン女史の Twitter でのつぶやきを紹介して、この記事を終わりにします。

JancisRobinson

Good to be in HK for @roomtoread fundraiser but sad to leave the land of Koshu, cold bathrooms & warm loo seats.


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YUTAKA

artfuldodgerさん、nice!をありがとうございます。

Jancis Robinson 女史は、本当に素晴らしい方でした。
笑顔も素敵でした。

ほりけんさま、nice!をありがとうございます。

復活、おめでとうございます!


by YUTAKA (2010-02-25 15:13) 

YUTAKA

akipon さん、nice!をありがとうございます。

いつも味のある写真と味のあるエピソードを
楽しませてもらっています。

そうそう、まだしばらくは CX1 で行くことにしました!
by YUTAKA (2010-02-26 08:06) 

fumiko

The Oxford Companion to Wine, 3rd Edition!
私は『The World Atlas of Wine 6th Edition』だとばかり思っていました。いずれにしても、貴重な宝物になりますね。
by fumiko (2010-02-26 23:56) 

hako

書物やビデオを通して馴染みのある大先生にお会いできたことは
ホントに凄い出来事ですね。 勉学の姿勢、見習いたいです。
ところで、甲州の映画、ナイスアイデアではないですか。
是非作ったら、良いと思います。がんがん行って欲しいですね。

by hako (2010-03-01 20:28) 

YUTAKA

HALさん、nice!をありがとうございます。

青木先生、nice!&コメントをありがとうございます。

それにしても充実したセミナーだったなと思います。
本は迷ったのですが、手持ちの World Atlas が古い
版のもので間に合わなかったのと、共著ということも
あり、ジャンシス・ロビンソン女史の名前が冠された
The Oxford Companion to Wine, 3rd Edition
の方を持って行きました。これも読み応えがあります。

サインは、本当に嬉しかったです。

hakoさん、nice!&コメントをありがとうございます。

僕にとっては、青木先生もそのおひとりです。
映画の本がきっかけでしたが、昭和女子の講座に通って
初日にサインをいただいたのを覚えています(笑)

甲州ムービー、透明感のある映像の中に溶け込むと
いい感じですね。監督は誰かなぁ・・・



by YUTAKA (2010-03-03 13:46) 

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